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2016-10-04

個人投資家からみたカネボウ事件

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Amazon Kindleで面白そうなタイトルの本を見つけた。

個人投資家の逆襲: 金なしコネなし知識なしの弱小投資家が判例100選に載るまで (Mulan)

筆者の山口さんは資格試験の予備校講師の傍ら投資をしており、MBOなどの被害者を救済するボランティアをしている。

MBO(Management Buyout);経営陣が自社の株式を買い取ること。
<メリット>
経営者が経営に一層の責任を持つようになる。意図しない買収のリスクを防ぐ。
<デメリット>
公開買い付けでは意図的に買い付け価格が低く設定されることがある。(既存株主の権利が侵害される。)
非上場になると企業側は株式市場からの資金調達ができなくなる。

 

私が過去に受けた会計の授業は主に企業側からみたMBOであった。

会社員時代は経理や財務の担当をしていたので、この手の話はどちらかというと企業側からみる方に興味があった。

しかし個人投資家になった今は、投資家側からみる意見も気になる。

今回は、公開買い付けで意図的に買い付け価格を低く設定されて被害を受けた個人投資家たちが起こした訴訟、「カネボウ事件」についてまとめてみる。

 

カネボウとはどんな会社?

カネボウと言えば、誰でも一度は聞いたことがある社名だ。

私は化粧品会社だと思っていたが、調べてみると創業時は紡績会社として始まっており、以前は化粧品以外に繊維・食品・薬品・日用品の事業も展開する多角化経営を行っていた。

粉飾決算

カネボウは化粧品事業は好調だったが、その他の事業は赤字であった。

他の事業の赤字を化粧品事業の黒字が補完する収益構造で、化粧品事業は他の事業の赤字を補完しても余りある高収益を上げていたため、社内の経営上の危機感とリストラを行う意欲は希薄であった。

カネボウは新規事業の参入を借入金で賄っていたため、バブル崩壊後は財務状況が悪化の道をたどる。

そして債務超過を隠すため、粉飾決算(不正な会計処理)を行ってしまう。

債務超過;負債の総額が資産の総額を超える状態のこと。資産を売却しても負債を返済できない状態であり、この状態で企業を清算すると株主の取り分はゼロの状態になる。

 

債務超過になると銀行からの融資が不可能となり上場廃止にもなるため、カネボウは粉飾決算を繰り返すことになる。

上場廃止基準

債務超過の状態となった場合において、1年以内に債務超過の状態でなくならなかったとき(原則として連結貸借対照表による)。

(参考;日本取引所グループ「上場廃止基準」http://www.jpx.co.jp/equities/listing/delisting/)

3553億円にも及ぶ債務超過へ

抜本的な見直しを行わず粉飾決算を続けた結果、カネボウは2003年度決算で3553億円の債務超過を抱えることになる。

2004年には最後の自主再建策として化粧品部門を花王へ売却すると発表したが、労働組合の反対により頓挫する。

そしてついに産業再生機構の支援を受けることになり、化粧品部門はカネボウから分離・独立し、株式会社カネボウ化粧品を設立することとなる。

産業再生機構;借金で苦境に陥っている企業の借金を減らし、本業で稼げるよう手助けをする機構。2003年から2007年までの間存在した日本の特殊会社である。(2007年清算完了し消滅している。)

上場廃止へ

2005年、東京証券取引所はカネボウの上場廃止を決定する。

上場最終日が6月10日、廃止日は6月13日となった。

7月29日に旧経営陣の帆足元社長、宮原元副社長が証券取引法違反で逮捕される。

9月13日には粉飾決算を指南した中央青山監査法人の公認会計士も証券取引法違反で逮捕され、同監査法人は2006年に金融庁より業務停止命令を受け倒産する。

花王の子会社へ

2006年に株式会社カネボウ化粧品は100%花王の子会社となり、カネボウ本体はユニゾン・キャピタル、アドバンテッジ・パートナーズ、MKSパートナーズからなる3つの投資ファンド傘下のトリニティ・インベストメント株式会社へ営業譲渡し、2007年に商標を「クラシエ」に変える。

「カネボウ」の商標権は株式会社カネボウ化粧品へ譲渡された。

参考;株式会社カネボウ化粧品の沿革クラシエグループの沿革

解散

2007年4月27日の取締役会でカネボウ株式会社の解散を定時株主総会の議案として上げることを決め、6月28日の株主総会にて解散の議案が採決された。

6月30日にカネボウ株式会社としての最終営業日を迎え、解散する。

解散;現在行っている通常の営業活動をすべて中止し、それまでに発生した債権債務を整理する活動に入るということ。(会社を消滅させる為の準備期間に入る。)

会社消滅

その後カネボウ株式会社は海岸ベルマネジメント株式会社に商号変更し、清算業務だけを行う会社として残余資産を株主に配分する等の処分をすすめ、清算に向かっていた。

清算;会社が解散したあと、それまでに発生した債権債務などを整理する活動のこと。具体的には、不動産や有価証券などの現金化(換価処分)、買掛金など債権の回収、売掛金その他債務の返済等すること。
清算した結果、会社に資産(残余財産)が残る場合は、原則として株主に対して出資割合に応じて分配することとなる。

しかし清算による消滅ではなく、筆頭株主であるトリニティ・インベストメント株式会社に2008年11月11日付で吸収合併され、消滅することとなった。

吸収合併;会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させること。

消滅会社(海岸ベルマネジメント株式会社(旧カネボウ株式会社))の株主は、存続会社(トリニティ・インベストメント株式会社)から合併の対価として、金銭等(現金、もしくは株式や社債でもOK)を受け取る。

トリニティ・インベストメント株式会社は海岸ベルマネジメント株式会社(旧カネボウ株式会社)の株式を83%保有していた。

合併時に残りの17%の株式を保有する株主(2006年のTOB(株式公開買い付け)応じなかった株主)に対して、株式割当ではなく金銭交付の実施を1株あたり130円という少額で行おうとし、反発を受ける。

個人投資家の逆襲

カネボウ株1万5,000株購入

2005年4月12日にカネボウの過去の粉飾決算が発覚。

この日の終値は1,491円。

上場最終日の6月10日には360円となり、これが最後の市場価格となる。

粉飾発覚前が1,491円、再上場まで気長に待てば1,000円にはなるだろうと山口さんは見込んで長期投資として1万5,000株購入。

ところが2006年、トリニティ・インベストメント株式会社はTOB(株式公開買い付け)の価格を1株あたり162円で買い付けると発表。

戦後最安値の277円さえも下回る価格に納得のいかない山口さんはこの後裁判で闘うことになる。

上場廃止株のメリット、デメリット

そもそも上場廃止というとネガティブなイメージがあるが、株主にとってデメリットだけではない。

上場廃止=倒産ではないため、山口さんのように業績回復と再上場するのを待ち、再度値上がりを待って売却し利益を得るというパターンもある。

(上場しないと好きな時に売買できないが、株の価値がゼロになるというわけでもない。)

ただし倒産してしまうとただの紙屑になってしまう。

(会社に残余財産があれば持ち株に応じて分配される可能性もある。)

多くの場合は無価値になってしまうので、価格が安くても損切りするのが一般的。

カネボウ個人株主の権利を守る会

山口さんはひょんなことから「カネボウ事件」の原告団の代表になり、裁判でカネボウと争うことになる。

原告団の結成の経緯や裁判に向けての準備、法廷でのやり取り、カネボウ側が価値を低く見積もった土地に実際に出向いて高級住宅地と見破り、謄本をとってカネボウ化粧品に売却した事実をつかむ描写は、まるでドラマを観ているような緊張感があり、読み応えがあった。

まとめ

自分の保有している株式がいつ上場廃止になるかわからない。

このような事例があると知っているだけでもかなり違う。

とても勉強になった。




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